アイルランドの孤島、スケリグ・マイケル その2
今までスケリグへ行くまでのことをお話ししたのですが、今回からいよいよ旅の本題に入ります。
スケリグへの船が出るのは土曜の朝、バレンシア島からです。
金曜日の夕方に着いて、そこでB&Bを探しました。
空いている部屋があれば、Vacancyの看板が出ているのですが、シーズン中なので、ほとんど満室です。
色々回ってみると、幸い、少し外れたところに、快適な宿が見つかりました。建物の外観が普通だったので期待はしなかったのですが、案内された部屋はとても素敵でした。海に面した窓があって、向こうには灯台が見えました。
その日は島の観光スポットを散策することに。
バレンシア島には可愛い港があります。
ワゴン車で売りに来ているバーガーとチップスを買って、近くのベンチで海を見ながらの夕食。
そのへんのレストランやパブで食べるより、ずっといい感じ。
アイルランドは夏と言っても、かなり寒いと感じる日も多いのですが、この日、夕方の浜辺は爽やかで、風が気持ちよく思えるくらいの快適さでした。
港から対岸を見ると、山に低く雲がかかっています。
アイルランドらしい風景でした。
B&Bに戻ると、窓から灯台の向こうに沈む夕日が見えました。
この時期の日没が午後9時半頃です。
普段なら、もう少し暗くなるまで起きてるのだけど、この日は早めに寝ることに。明日に備えてゆっくり休んでおかなくては。
いよいよ船の出る日の朝です。
泊まっていたのはB&B (ベッド&ブレックファースト)ですから、朝ごはん付きです。
卵とベーコン、ソーセージ、それにトーストとコーヒー/紅茶。
そう呼ばれますが、中身はイングリッシュ・ブレックファーストと変わりません。
朝食のために用意された部屋があって、そこからも海が見えました。
でも天気はあいにくの雨。どんよりした空が、少し不安。
少しして、ちょっと明るくなった気がしたけど、部屋に戻って窓から頭を出すと、
顔に雨が当たります。
でも、海は穏やかに見えたので、気を取り直して出かける準備をしました。
天気がいいのに越したことはないのですが、
この前ボートがキャンセルになったことを考えれば、行けるだけで幸せです。
ボートが出るのがビジターセンターだったので、そちらへ向かいます。
車で15分ほどだったでしょうか。
途中、とてもアイルランドらしい光景に出会いました。
「乳牛が通ります」みたいな看板がおいてあって、牛が前の道路を横切って行きます。
その間、車は当然ながら気長に待つのですが、のどかな感じで心が和みます。
船の時間まで少しあるので、近くの店でちょっとだけ食べ物を買うことにしました。
でもその日は往復で2時間船に乗ることになるので、お昼は控えめです。
船にも島にもトイレはないと聞いていたので、それを考えると、
食べること自体、あんまり気が進まない気がしました。
いよいよボートに乗り込み、出発。なんだかドキドキ。
ボートが出るのは、海が穏やかな場所なのですが、
その時点から、船は結構揺れました。
なにせ小さな船です。
その頃には雨も上がっていましたが、小さいながらも船室がある船だったので、
中に入ることにしました。
内装は個人所有のレジャーボートみたいな感じで、快適そう。
っと思ったのですが、
船が出てすぐ、結構揺れるので、一瞬で酔いそうになりました。
窓の外の景色が上下に揺れるのが、なんとも気持ちが悪いのです。
座っているのも、つらい感じがして「今、船が出たばかりなのに、
これからどうなるんだろう。」と思って立ち上がりました。
その不安そうな私を察したのか、オーナーが
船室から出た方がいいと言ってくれました。
船の後方、屋根はないのですが、狭いけど、4人ほどは座れるスペースがありました。
「ここに居るのが一番船酔いしにくいんだよ」とのこと。
半信半疑でしたが、実際に座ってみると、その通り。
船の揺れが小さくなる訳ではないのですが、船室の中よりはずっと楽なのです。
窓枠を通して外の景色を見ていると、
目の前にある画面を揺すられるような感じがしました。
その視覚的な影響で、船に酔いそうになったのだとわかりました。
外に出てからは、船の揺れも、怖いと思うことがなくなって、
「ちょっとスリルがある乗り物」みたいな感じになりました。
ボートの後ろには大きな波しぶきが立っています。
それもなんだか、楽しめるくらいになりました。
船に揺られて、波を見つめながら、
かつてこの海を渡った修道士たちのことを想いました。
エンジンのついた船で1時間ほどかかるのです。
手漕ぎの舟でどれだけ時間がかかったのか。
潮の流れを味方につけても、並大抵ではないはず。
昔の人は一体どうやってこの荒れる海を渡ったのでしょうか。
そして、一度行ったら、いつ戻るのかもわからない、
あるいは、戻らないことを前提に行ったのかも知れません。
そもそも、ここに住むことを決めたのは、どんな心情だったのか。
目の前に広がる深い海の青が、私の意識までも、別の世界に引き込むようです。